真骨魚類孵化酵素遺伝子の分子系統樹によると、初期に分岐する魚では、単一種の酵素遺伝子であるが、遺伝子重複・多様化により、後期に分岐した魚では、2種の遺伝子(cladeIとcladeII遺伝子)を持つことが知られている。遺伝子重複は、正真骨魚類とニシン・骨ピョウ類が、分岐する以前に起きており、2つの魚種では、それぞれが2種の酵素系により卵膜を分解していることが示唆される。タンパク質レベルの研究により、単一の酵素系では、卵膜を部分分解して膨潤化させ胚の運動により卵膜を破って孵化することがわかっている。一方、正真骨魚類の魚では、2種の酵素が共同して卵膜を完全分解することから、効率の良い分解系に進化しているといえる。本研究の目的は、いまだ解明されていないニシン・骨ピョウ類の魚の酵素系を調べることと、孵化酵素の進化過程で、卵膜タンパク質(基質と酵素)がどのように分子共進化して効率の良い分解系が生じたかを明らかとすることを目的とした。正真骨魚類では、cladeI遺伝子が、祖先型の機能(卵膜膨潤)を維持し、cladeII遺伝子が、膨潤卵膜の可溶化という新規機能を獲得したと考えられている。ニシン・骨ピョウ類のミルクフィシュの2種の酵素の性質を調べると、両酵素とも卵膜を膨潤させる作用を持つことがわかった。このことから、ニシン・骨ピョウ類の2種の酵素系は、効率の良い分解系に進化しなかったことが示唆される。合成ペプチドを用いて両系統のcladeIとcladeII酵素の基質特異性を調べると、cladeI同士、または、cladeII同士でその特異性は、良く似ている。一方、基質(卵膜構成タンパク質)のアミノ酸配列を見ると、正真骨魚類において切断点近傍に多くのアミノ酸置換が観察された。このことから、効率の良い卵膜分解機能の獲得には、基質側のアミノ酸変異が大きく関与していることが示唆された。
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