霊長類において「匂い」(いわゆるフェロモン)が他個体の生殖器系機能活性やそれにともなう行動に影響を及ぼすとの仮説に基づき、本年度は霊長類のうち、ヒトに最も近縁といわれるチンパンジーに加え、基礎データが充実しており、行動観察の容易なマカカ属のニホンザルを用いて、メス-メス、メス-オスへのにおいによる化学交信の有無および行動に及ぼすその効果を調べるために一連の実験を行った。 平成22年度は下記の実験を行った。 同性および異性間の匂いによる化学交信 (1) 正常性周期各期における行動とその解析 実験に先立ち、野生チンパンジーの性周期を確認するために、尿中LH、estrogenおよびprogesterone代謝産物など、各種生殖関連ホルモン動態を測定するための酵素免疫測定法の開発を行った。さらに野生における交尾行動の意義とそのホルモン動態を調べるために野外における糞および尿サンプル採取および保存法の確立を行った。これらの方法により尿中LH、estrogenおよびprogesterone代謝産物、糞中estrogenおよびprogesterone代謝産物が測定可能となり、本法を用いて測定を行った結果、血中動態と相関することが明らかとなった。さらに、研究協力者によりアフリカから持ち帰った野生チンパンジーの糞および尿からホルモンを抽出し、分析を行った結果、野生チンパンジーの排卵、妊娠が確定できた。これらの結果と行動記録をあわせ行動と生殖関連ホルモン動態との関連について解析を進めた。結果は、例数が少ないこともあり、現在結論に至っていない。さらに例数を増やして解析を進めている。 (2) 妊娠に至らない時期での交尾行動 ニホンザルにおいても同様な方法で実験を進め、メス-メス間の性行動についても行動分析と採取したホルモンの分析を行った。同時に採取済の匂い物質について分析行っている。
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