研究課題
低温ストレスはイネの生育期間全般にわたり様々な傷害を引き起こし、栽培地域を制限する最大の要因の一つである。特に、世界の稲作の北限地帯の一つである北海道は、冷涼な気候と短い生育期間によって引き起こされる低温傷害が最大の制限要因となっていたが、19世紀後半から現在に至るまで絶え間ない育種努力と栽培技術の改良により、現在の稲作体系が確立された。栽培イネの北海道への適応は、近代育種以前の長い進化的な遺伝変異の蓄積と近代の人為的選抜や交雑育種により、わずか100年の間に達成されており、作物進化の歴史上極めて興味深い事例と考えられる。しかしながら、栽培イネの進化過程の中で、低温抵抗性の遺伝的変化がどのように北方適応や北海道品種群の成立に寄与したかについては不明な点が多い。本研究では、寒冷地帯におけるイネ低温適応機構の解明を目的として、これまで厳密に評価されてこなかった低温順化反応性に着目し、遺伝機構を明らかにするとともに、稲作北限地帯である北海道において適応的意義と新たな育種形質としての農業的価値を評価することを目的としている。本年度は、低測順化反応性に関して北海道在来品種(A58)とインド産野生イネ(W107)の組換え自殖系統を用いて、順化条件下での幼芽期低温抵抗性についてQTL解析を行い、無順化条件下での低温抵抗性とは異なる2つのQTLを同定することができた。無順化条件で同定した幼芽期低温抵抗性QTL(qCIP11)については、約4500個体の分離集団を用いてファインマッピングを行った。また北海道の主要品種の一つである「ほしのゆめ」とA58の交雑集団を用いた解析から、「ほしのゆめ」がqCIP11領域にW107と同じ低温感受性の対立遺伝子を持つことを明らかにした。
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Breeding Science
巻: 61 ページ: 61-68
doi:10.1270/jsbbs.61.61
Hereditas
巻: 148 ページ: 1-7