植物の無性胚発生に関わる遺伝子は未だに同定されていない。珠心胚発生により多胚種子を形成するカンキツでは、その遺伝子座の領域の詳細なマッピングが進められ、遺伝子の同定が期待される。そのためアプローチとして、多胚性制御遺伝子の座乗するカンキツ第1連鎖群上の領域をカバーするゲノム配列決定を目標とし、DNAマーカーにより'宮川早生'に由来するBACクローンを選抜した。'宮川早生'は胚性に対してヘテロ接合型であるため、BACクローンをSNPにより多胚性および単胚性と関連する2群に分別して、それぞれの胚性に対応するコンティグを作成した。新型シーケンス法により多胚性ハプロタイプ配列を高精度に解析し、次にギャップ部位を埋めることで380kbの全配列を決定した。遺伝子配列予測(RICEGAAS)により領域内に72の候補遺伝子ORFを検出した。ここで検出されたORFの配置は既にゲノム配列の公表されたブドウと高度に保存されていることが明らかになった。同時に単胚性ハプロタイプについても塩基配列決定を進めており、胚性と関連するゲノム塩基配列の構造差を検出してきている。一方、遺伝子発現からの制御遺伝子を同定するアプローチとして、多胚性品種'ポンカン'のカルス細胞からの胚誘導の実験系を用いて、胚形成過程における遺伝子発現のプロフィールの解析を開始した。その結果、培養による体細胞胚の発達段階と関連して変動するいくつかの転写因子遺伝子を検出した。また、多胚性遺伝子座領域に検出されたORFには、開花時における珠心と培養系における胚形成誘導時とで発現様式の異なるものが検出された。これらのゲノム配列および予測遺伝子の発現特性の解析が、制御遺伝子の同定と利用に繋がるものと期待される。これらの知見について現在論文の取りまとめ中である。
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