オオムギ野生種(Hordeum bulbosum)は独立二遺伝子座(SおよびZ)支配の自家不和合性を有している。本研究では、雌ずい側の有力なS遺伝子候補HPS10(Hordeum Pistil S-specific 10)の単離に引き続き、新たな花粉側S遺伝子候補を探索するため、HPS10遺伝子周辺ゲノム領域の塩基配列解析を行い、ゲノム上でHPS10に隣接し、生殖器官で発現している遺伝子として、植物の機能未知ドメインDUF247を持つ遺伝子を見出した。本年度は、このDUF247遺伝子が花粉側S遺伝子候補になりうるかを検討するため、その転写領域、発現特異性、塩基配列多型性について解析を行った。DUF247遺伝子の転写領域を決定するため、3'RACE解析を行った結果、1つのエキソンからなる転写産物(DUF247a)と、2つのエキソン構造を持つ転写産物(DUF247b)の主に2種類の転写産物が存在することが明らかとなった。また、DUF247bの第2エキソンはHPS10 mRNAの相補鎖に部分的にオーバーラップすることが示された。それぞれの転写産物から翻訳される推定アミノ酸配列をS_1およびS_3ハプロタイプ間で比較すると、DUF247aは79%の相同性を示しC末端領域が保存されていたのに対して、DUF247bでは第2エキソンにコードされるC末端部分に多型領域のあることが示された。また発現パターンに関して、DUF247aが全組織で発現するのに対して、DUF247bは生殖器官特異的(S_1では雌ずい、S_3では葯と雌ずい)発現を示した。さらに、S_1ハプロタイプでは葯で特異的に発現するもう1つの転写産物(DUF247c)が存在することが示された。これらの結果から、生殖器官特異的に発現する転写産物にコードされるDUF247タンパク質は新たなS決定因子の候補になりうるが、花粉側S因子の候補と考えるには、S_1-DUF247cのような葯特異的なスプライシング産物が他のSハプロタイプにも存在するかどうか、今後さらに詳しく調査する必要があると考えられた。
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