本研究では、アブラナ科作物の育種において世界的に広く利用されている、ダイコンのオグラ形雄性不稔に対する稔性回復遺伝子を単離することを目的としている。対象とする稔性回復遺伝子に関しては、現在までに雄性不稔の原因遺伝子(ミトコンドリアのorf138)の発現を翻訳レベルで抑制するorf687が単離されている。またこれとは別にorf138のmRNAのプロセシングに関与するRftの存在も確められている。その一方で、これらorf687、Rftを持たないにもかかわらず、稔性回復力を有するダイコンが存在することが明らかになった。このため、今年度は主に、これら未知の稔性回復遺伝子を同定することを目的として研究を進めた。 orf687、Rft以外の稔性回復遺伝子を持つと考えられる、ハマダイコンおよびクロダイコンを交雑親に用いて、稔性回復遺伝子の有無についての分離集団を作成した。その結果、いずれの分離集団においても、単一の稔性回復遺伝子により花粉稔性が分離することが確かめられた。このうち、クロダイコンを用いた交雑後代の個体について行ったPCRによって、花粉稔性の有無と完全に連鎖したDNAの増幅パターンが観察された。そこで、この増幅DNAの塩基配列を決定したところ、この稔性回復遺伝子はPPRタンパク質をコードするものの、既知のorf687とは異なる塩基配列を持つことが明らかになった。さらに、この遺伝子は、orf138のプロセシングには関与せず、翻訳レベルで発現を抑えていることが確認された。 以上、今年度における新規稔性回復遺伝子の発見によって、ダイコンに存在する稔性回復遺伝子とそれらの機能の多様な分化が示された。今後さらに他の稔性回復遺伝子の構造と機能を明らかにすることにより、雄性不稔遺伝子orf138に対する稔性回復遺伝子の全容の解明を目指す。
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