研究概要 |
本研究の目的は,作物の生産性向上を最終目標とし,植物器官から放出されるCとNのδ値の変化を調べ,生理機能との関係を解析することにより,呼吸代謝・光呼吸代謝系における炭素と窒素の由来と動態を明らかにし,その生理的意義を吟味することにある。 本年度では新たにレーザー分光式の二酸化炭素同位体比アナライザー(Picarro G1101型)を呼吸測定に用いた。これを応用した植物呼吸ガス中のCO2同位体分析に関する研究はまだ少ない。まずこの測定器が本実験目的に必要な精度と安定度を有するかどうかを検証した。既知δ標準CO2ガスを40時間以上装置に流しモニタした結果,測定δCの変動は±1%。以内であり,呼吸中のCO2濃度とδCを前処理なしに長時間安定的に測定することが可能と判断された。そこで切断したイネとトウモロコシの地上部,根,穂を材料とした実験を行った。栄養生長期のイネでは根と地上部の呼吸速度に有意な差が無かったが,δCにおいて根の呼吸は地上部よりも有意に高いことが示された。また生殖生長期においても同様であった。いっぽうトウモロコシでは栄養生長期・生殖生長期ともに根と地上部との間に呼吸δCの有意差は認められなかった。これはイネのCシンク(根)ではトウモロコシよりも光合成同化Cプールの代謝回転速度が遅いためと推察された。 つぎに呼吸の性質とCプールの動態を探るため,トウモロコシの切断した葉と根を呼吸チャンバに入れ,放出されるCO2に含まれる13C同位体自然存在比を48時間以上連続測定した。その結果,呼吸速度は両者とも緩やかに減少したが,葉のδCは約±2%のうねりをともないながら同水準で推移した。根では28時間まで安定的に経過した後急速に減少した。以上のことからトウモロコシ根では28時間以降に呼吸基質が変動することが推察された。
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