サツマイモの根は、若根、塊根、梗根及び細根に区別され、若根の一部が内部に多量のデンプンを蓄積して塊根となる。若根が塊根へ発達するためには細胞増殖が活発であることと増殖した細胞のデンプン合成能力が高いことが必要である。本研究は、サツマイモの細胞増殖及びデンプン合成を調節している遺伝子について塊根形成過程における発現制御機構を明らかにするとともに転写因子を用いた遺伝子の転写活性の調節について検討した。 まず、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)を活性化することによって細胞分裂を進行させるサイクリンD3とデンプン合成における鍵酵素であるADP-グルコースピロホスホリラーゼ(AGPase)について遺伝子の発現を調べた。塊根形成過程においてサイクリンD3遺伝子(Ipoba;CrcD3;1とIpoba;CycD3;2)の発現レベルは一次形成層が発達する時期に最も高くなり、AGPase遺伝子(iAGPL1-1)の発現レベルは塊根形成とともに高まった。また、サイクリンD3及びAGPase遺伝子の発現は転流物質であるスクロースによって誘導された。次に、モデル植物であるシロイヌナズナを用いてAGPase遺伝子(ApL3)の転写因子を探索した。その結果、ApL3遺伝子のプロモーターに直接作用して転写を活性化する転写因子AtWRKY20を見出した。さらに、AtWRKY20遺伝子の発現は糖により誘導されたことから、糖によるApL3遺伝子の発現誘導はAtWRKY20を介して行われることが示唆された。次いで、サツマイモにおけるAGPase遺伝子の転写に及ぼすAtWRKY20の効果を検討するため、AtWRKY20をサツマイモで過剰発現させた。AtWRKY20はサツマイモのAGPase遺伝子のプロモーターに直接作用し、転写活性を高めることが明らかとなった。
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