本研究は、葉菜類にアンモニア耐性を付与するための基礎情報として、アンモニア過剰条件下における葉菜類のアンモニア代謝機構を明らかにすることを目的とする。比較的アンモニア耐性があるサラダナは、アンモニア過剰条件下においても生育を継続するのに対して、アンモニア感受性作物であるコマツナは、アンモニアストレス下では定植後ほとんど成長することはなく、葉がネクロシス症状を起こした。これは、コマツナでは葉のアンモニア濃度が顕著に高まるのに対して、サラダナではアンモニアがほとんど蓄積しないためであった。アンモニア代謝酵素であるグルタミン合成酵素(GS)およびグルタミン脱水素酵素(GDH)の活性を測定したところ、コマツナでは、GS活性が失活し、GDH活性も極めて低いレベルであったが、サラダナでは、GSおよびGDH活性ともに、非アンモニア過剰条件下である対照区と比較して同等レベルを維持した。したがって、サラダナのアンモニア耐性機構は、アンモニア過剰条件下においてもアンモニア代謝活性が維持され、アンモニアの蓄積を回避することによると考えられる。次に、GS阻害剤であるバスタを葉面散布し、GS活性が抑制された場合のGS代替酵素として、GDHが機能するかどうかを調査した。その結果、バスタ7500倍希釈液を散布した場合、コマツナでは葉のアンモニア濃度が高まったのに対して、サラダナではアンモニア蓄積が起こらなかった。これは、GDH活性はコマツナに比較してサラダナで高く、またGS活性はコマツナではほとんど認められなかったのに対してサラダナでは水散布の対照区と大きな差はなかった。以上より、アンモニアストレス条件下では、アンモニア代謝を維持するためにGSとGDHの両者の活性維持が必要であり、GS活性を維持するにはGDHが十分機能することが重要であると考えられる。
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