研究概要 |
トランスポゾンの活性化により突然変異を生じやすくなった個体・系統を見いだして,それを育種材料として用いることは,新しい形質をもつ品種を育成する上で非常に有効な手段となる.筆者らはこれまでに,枝変わりの発生が認められたアジサイ品種'BlueSky'において,複数の種類のレトロトランスポゾン配列が恒常的に転写されている現象を発見した.本研究では,この現象をアジサイの育種に有効に活用するために必要な基礎的知見を得ることを目的に,アジサイをはじめとするいくつかのアジサイ属植物について,レトロトランスポゾン転移の発生頻度を明らかにする.またレトロトランスポゾンの転写現象を利用して,花房型制御遺伝子の単離を行う. 本年度は,額咲きアジサイ品種'BlueSky'の芽条変異枝の挿し木繁殖系統'BM-1'と,芽条変異枝発生株の変異を起こしていない枝の挿し木繁殖系統を供試し,同じ1つの株から切り離されてから12年の間にそれぞれの系統で生じたレトロトランスポゾンの転移頻度をトランスポゾンディスプレイ法により解析した.その結果,それぞれの系統に特異的なバンドがいくつか検出され,転移が生じていることが示唆された.しかしトランスポゾンディスプレイ解析において,ポリアクリルアミドゲルでの泳動像で不鮮明となる長鎖のバンドが多かったため,正確な転移頻度を解析するためには実験手法を改良する必要がある. 花房型変異系統'BM-1'の花芽において単離された長鎖の二本鎖RNAの中に,レトロトランスポゾンの部分配列と相同性の高い配列が含まれていた.この単離されたレトロトランスポゾン配列をもとにRACE法によりレトロトランスポゾンと花房型制御遺伝子のキメラ配列の単離を試みた.しかし現在のところ花房型遺伝子と推定される配列は単離されておらず,今後トランスポゾンディスプレイ法による単離も試みる必要がある.
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