研究概要 |
トランスポゾンの活性化により突然変異を生じやすくなった個体・系統を見いだして,それを育種材料として用いることは,新しい形質をもつ品種を育成する上で非常に有効な手段となる.筆者らはこれまでに,枝変わりの発生が認められたアジサイ品種'BlueSky'において,複数の種類のレトロトランスポゾン配列が恒常的に転写されている現象を発見した.本研究では,この現象をアジサイの育種に有効に活用するために必要な基礎的知見を得ることを目的に,アジサイをはじめとするいくつかのアジサイ属植物について,レトロトランスポゾン転移の発生頻度を解析した。またレトロトランスポゾンの転写現象を利用して,花房型制御遺伝子の単離を試みた。 額咲きアジサイ品種'BlueSky'の芽条変異枝の挿し木繁殖系統'BM-1'と,芽条変異枝発生株の変異を起こしていない枝の挿し木繁殖系統を供試し,同じ1つの株から切り離されてから13年の間にそれぞれの系統で生じたレトロトランスポゾンの転移頻度をトランスポゾンディスプレイ法により解析した.昨年度の実験ではゲノムDNAを制限処理した後にPCRにより増幅して得られたDNA断片が長く、また検出されるバンドが多いため、バンドが不明瞭となり問題となった。そのため本年度は4塩基認識の制限酵素を用い、プライマーの非特異付加配列を長くするなど手法を改良してトランスポゾンディスプレイ法を行った。その結果,バンドが明瞭となり、それぞれの系統に特異的なバンドがいくつか検出された。これらの結果から、'BlueSky'では高頻度でレトロトランスポゾンの転移が生じているものと考えられた。またこれらの検出された特異的バンドの中に、花房型制御遺伝子断片が含まれている可能性があるため、現在ポリアクリルアミドゲルから特異的バンドの抽出、クローニングを試みた。しかし現在のところ、花房型制御遺伝子の可能性のある配列は単離されておらず、さらに非特異バンドの単離を継続して行う必要がある。
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