甲州'はわが国在来のブドウ品種で、日本の白ワイン用品種としても重要な品種である。最近、'甲州'ワインはEUや米国へも輸出されており、'甲州'の特徴を明らかにすることは、国産ワイン振興のためにも重要と考えられる。 平成21年度は、まず、東洋系及び西洋系ブドウの代表的な数品種を用いて、ビオチンラベルしたゲノムDNAのブドウジーンチップへのハイブリダイズ実験を行った。その結果、各プローブセットのハイブリダイズ強度の品種間の相関係数は、'甲州'と東洋系品種('甲州三尺'、'竜眼'、'白鶏心')間の方が、'甲州'と西洋品種('カベルネ・ソービニヨン(CS)'、'ピノ・ノアール'、'シャルドネ')間よりも高く、'甲州'が東洋系Vitis viniferaであることを裏付ける結果となった。一方、以前に見いだした'CS'と比較して甲州で特異的にハイブリダイズ強度が低いプローブセットは東洋系品種に必ずしも共通ではなく、むしろ'ピノ・ノアール'と共通のものが多いという興味深い結果が得られた。次に、'甲州'で特異的にハイブリダイズ強度が低いプローブセットについて、該当する'甲州'の配列をゲノムウォーキングやサザン解析で検討した。その結果、'甲州'と'CS'との有意な差違は見い出せず、'CS'では類似配列がハイブリダイズしている可能性が示唆されるプローブセットもあったが、'甲州'ではサザン解析でフラグメントが検出されず、該当配列の欠損が示唆されるプローブセットも見い出された。これらの配列はいずれも機能未知の配列で、ブドウのESTデータベースで発現頻度の低いものであったことから、これらの配列の欠損は'甲州'のゲノムの特徴ではあるが、その形質に大きな影響を及ぼすものではないと推定された。今後は、'甲州'及び他の東洋系品種と西洋系品種の遺伝子発現の差違を検討する計画である。
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