'甲州'はわが国在来のブドウ品種で、日本の白ワイン用品種としても重要な品種である。最近、'甲州'ワインはEUや米国へも輸出されており、'甲州'の特徴を明らかにすることは、国産ワイン振興のためにも重要と考えられる。これまでの研究で、われわれは'甲州'はVitis vinifera東洋系品種群に属することを報告している。平成21年度の研究で、'甲州'のゲノム配列の大部分は西洋系品種と大差ないことが明らかになったことから、平成22年度は、西洋系品種のESTデータに基づいて設計されたブドウ・ジーンチップ(Affymetrix社)を用いて、'甲州'及び西洋系品種の遺伝子発現の差違を検討した。 '甲州'及び西洋系ブドウ品種として'シャルドネ'を用い、幼果期、成熟開始期、成熟中、及び収穫期の果皮、並びに新葉からRNAを抽出し、ジーンチップを用いた網羅的発現解析を行った。その結果、同時期の'甲州'と'シャルドネ'の間には、同じ品種('甲州'または'シャルドネ')の異なる時期(幼果期と成熟中、等)の遺伝子発現の差よりも大きな差違があり、両品種には大きな遺伝子発現上の差違があることが明らかになった。'甲州'で発現が高い遺伝子の中には、アントシアニン合成系遺伝子の他、Class III Peroxidase等のストレス応答遺伝子や、Pathogensis-Related 4-type protein等の耐病性関連タンパク質遺伝子が含まれており、'甲州'が比較的耐病性が高いこととの関連が推察された。その後、一度に12サンプルが解析でき、1サンプル当たりのコストが低いブドウNimbleGenチップが利用可能になったことから、これを用いた遺伝子発現解析を検討した。'甲州'を含む東洋系5品種、'シャルドネ'、及びVitis labrusca系品種の'ナイヤガラ'の成熟中の果皮を供試したところ、品種によって特徴的な発現パターンを示した。発現解析データのクラスター解析の結果はブドウの分類とよく一致しており、ブドウの遺伝子発現にも遺伝的な類似性があることが示唆された。
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