'甲州' はわが国在来のブドウ品種で、日本の白ワイン用ブドウとして重要な品種である。'甲州' の特徴を明らかにすることは、国産ワイン振興のためにも重要と考えられる。平成23年度は前年に引き続き、成熟中のブドウ果皮を用いた網羅的発現解析を行い、'甲州' と西洋系品種、東洋系品種などとの遺伝子発現を比較した。 まず、Affymetrix社製GeneChipを用いて、'甲州'と西洋系品種'Chardonnay'を比較した。有意なハイブリダイズが認められるプローブセット(遺伝子)をk-meanscluster法で解析したところ、2年とも '甲州' > 'Chardonnay' であった125個には、アントシアニン合成系遺伝子の他、Stilbene synthaseなどが含まれていた。一方、'Chardonnay' > '甲州' であった199個には、Amino acid permease 6やイソプレノイド合成系遺伝子などが含まれていた。これらの結果は、ある程度 '甲州' の性質との関連が推定されるが、'甲州' に特にresistance系の遺伝子発現が高い訳ではなかった。 次に、1サンプル当たりのコストが低いNimbleGenチップを用いて、'甲州' を含む東洋系5品種、'Chardonnay' 及びV.labrusca系品種の 'Niagara' の発現解析を行った。2年間のデータを合わせて階層的クラスター解析を行ったところ、V.vinifera品種が1つのクラスターを形成したが、東洋系品種のみのクラスターは形成されなかった。このことは、東洋系品種群の遺伝子発現パターンが西洋系品種とさほど大きく異なるものではないことを示唆するものと考えられる。次に、各遺伝子のハイブリダイズ強度について、各年の 'Chardonnay' の平均値に対する比をとり、両年とも 'Chardonnay' と東洋系品種で有意に差のある遺伝子532個を抽出した。これらの遺伝子をGO解析したところ、東洋系に共通して発現が低い遺伝子にTerpene synthase群が、高い遺伝子に植物ステロール生合成系のCycloartenol synthase群がみつかった。ブドウ果皮細胞のステロール成分についてはこれまで報告がなく、東洋系、西洋系の品種による差違があるのか興味が持たれる。
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