本研究は、植物病原ウイルスであるレンゲ萎縮ウイルス(MDV)ゲノムDNAの詳細な機能解析を行い、有用遺伝子を特定の植物組織で高率に発現するベクターの構築を目指すものであり、クローン化したMDV-DNAコンカテマーをAgroinfection法により植物へ効率的に導入する'全身感染系の確立'はその根幹を成す技術的条件である。この実験系の基礎はほぼ確立しているが、接種した全てのDNAコンポーネントが検出される割合は3-10%と低い。この原因としてウイルスゲノムに変異が含まれていることが考えられる。感染率を改善するために、H23年度、新たにMDV野生株を分離し、ゲノム配列の詳細な変異を解析し、オリジナルのMDV-N分離株の配列と比較した。その結果、現在のN株の配列は1989年に解析した配列と比べ欠失や置換を持つクローンを多数含むことが判明した。これに対し、新たに採取されたMDV-N11分離株の配列はオリジナルのMDV-N株に近い配列を含むクローンを含んでいた。この理由としてN株は延べ25年以上に亘って人口気象器内でソラマメとマメアブラムシを用いて維持されてきたが、自然界におけるMDVの生活環は解明されておらず、夏期の宿主が不明であることがあげられる。自然宿主とは異なる単一宿主(ソラマメ)を用いて一定環境条件下で増殖を繰り返した結果、特定の塩基配列変異が蓄積されたと考えられる。そこで試験に用いるウイルスDNAをN株からN11株へ転換し、N11株ゲノム全体の配列中の変異を解析中である。また、自然界におけるMDVの自然宿主検索調査を行った結果、これまで未報告であったマメ科以外の雑草からMDVが検出された。今後N11株ゲノムの主要配列を持つDNAクローンを用いた感染系確立を目指す。
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