本研究は主要穀物にカビ毒汚染被害を与えているムギ類赤かび病菌について、宿主内進展能を支配する遺伝子の解明を目的としている。この研究は大きく、1、宿主内進展能欠損株と野生株の交配、2、宿主内進展能に連鎖するDNAマーカーの探索、3、ゲノムデータベース探索と候補遺伝子の導入試験、4、野生株と宿主内欠損株で遺伝子構造を比較、から成っており、本年度については当初の計画に沿って1と2を実施した。 1、交配を繰り返すことで、連鎖解析に用いる交配子孫株をこれまでの20株から100株にまで増やした。それら一つ一つを宿主であるコムギの穂に接種試験した結果、宿主内進展能を持つものが64株、持たないものが36株であった。 2、これまで本菌の連鎖地図作成を通じて開発してきたシーケンスタグ化マーカーから、ゲノム全体に散在しており、かつ、交配に用いた宿主内進展能欠損株と野生株で識別が可能なものとして33個のマーカーを選抜した。これらのマーカーを使って20子孫株のゲノムを分析した結果、第2染色体上に位置するVNTR995マーカーとVNTR1049マーカーが宿主内進展能とそれぞれLODスコア3.71と3.55を示し、強い連鎖関係にあることが分かった。また、これらのDNAマーカー間に位置しているMating Type Ideomorph(MAT)遺伝子をDNAマーカー化して同様に20子孫株を調べたところ、VNTR995マーカーとVNTR1049マーカーより更に高いLODスコア5.98を示した。これら3つのDNAマーカーについて、残り80子孫株のゲノムを分析し、MAT遺伝子マーカーが宿主内進展能と最も強い連鎖関係にあることを確認した。
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