本研究は主要穀物にカビ毒汚染被害を与えているムギ類赤かび病菌について、宿主内進展能を支配する遺伝子の解明を目的としている。本年度についてはゲノムデータベース探索と候補遺伝子の絞込みを実施した。 ゲノムデータベースで第2染色体上のVNTR995マーカーとVNTR1049マーカーの間を探索し、MATのマーカーに加えて新たに18個のPCR-RFLPマーカーを設定した。子孫株でこれらのマーカーのデータを取得した結果、100子孫株において宿主内進展能と完全連鎖を示すマーカーが見出され、宿主内進展遺伝子がHS369/HhaIマーカーからHS367/AvaIマーカーまでの約54Kb中に存在することが明らかとなった。ゲノムデータベースによればこの領域に16個の遺伝子が存在している。当初の予定では、候補遺伝子を宿主内進展能欠損株に導入に際して、野生株のゲノムライブラリーよりクローンを選抜する予定であったが、予想以上に候補遺伝子を絞り込むことができたため、PCRで各遺伝子を増幅して宿主内進展能欠損株への導入用プラスミドベクターを作製することにした。このPCRの過程で、野生株と宿主内進展能欠損株を比較したところ、野生株では全領域で増幅が認められたのに対し、宿主内進展能欠損株では増幅が認められない領域があった。そこでその領域を更に詳しく調べた結果、宿主内進展能欠損株には約3Kbの欠失があることが判明した。ゲノムデータベースによれば、この欠失でFGSG02810遺伝子の全体、及びFGSG02809遺伝子の上流域とFGSG02811遺伝子の一部が失われることになる。従って、宿主内進展遺伝子は、これら3個の遺伝子のいずれかであることが推定された。
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