研究課題
本研究は主要穀物にカビ毒汚染被害を与えているムギ類赤かび病菌について、宿主内進展能を支配する遺伝子の解明を目的としている。本年度については宿主内進展能欠損株への候補遺伝子の導入試験を実施した。前年度までの研究によりムギ類赤かび病菌の宿主内進展能を支配する遺伝子は、第2染色体上のFGSG02809遺伝子、FGSG02810遺伝子、FGSG02811遺伝子のいずれかであると推定された。そこで野生株よりこれらの遺伝子をそれぞれ糸状菌の形質転換用プラスミドに挿入したベクターを作成し、形質転換により宿主内進展能欠損株に導入した。遺伝子導入株をコムギ穂に接種して宿主内進展能を調べた結果、FGSG02809遺伝子とFGSG02811遺伝子の導入株では宿主内進展能が回復していなかったのに対し、FGSG02810遺伝子の導入株では宿主内進展能が回復していた。従って、ムギ類赤かび病菌で宿主内進展能を支配しているのがFGSG02810遺伝子と判明した。当初はここで判明した遺伝子について野生株と宿主内欠損株の塩基配列を調べて、構造の違いを明らかにする予定であったが、昨年度の研究から宿主内欠損株ではこの遺伝子の塩基配列が野生株と異なっているというわけではなく、遺伝子全体の欠失であることが分かっている。そこで野生株の感染においてFGSG02810遺伝子が機能していることを確認するために、コムギ穂に接種した試料から抽出したmRNAを用いてRT-PCRを行った。その結果、予想サイズのDNAの増幅が認められ、少なくともムギ類赤かび病菌の感染時にFGSG02810遺伝子が発現していることが確認された。
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