研究概要 |
本研究は昆虫の休眠・非休眠機構解明の一環であり,本年度は昆虫(カイコガ)の胚子発生に関与している一酸化窒素合成酵素(NOS)の新規スプライシングバリアント(NovNOS-V)の役割の解明を目的として研究を遂行した。具体的には,NOSとNovNOS-V遺伝子の発現と構造の解析,休眠卵・非休眠卵・浸酸処理卵(休眠卵に塩酸で人為的に発生を進める処理を施したもの)での胚子発生時のNOSの活性測定を行った。また,浸酸処理卵での免疫組織化学的解析も行った。その実績の概要を以下の(1)~(3)に示す。 (1)NOS遺伝子発現解析をRT-PCRにより行った結果,休眠卵では産卵後48時間の発現が高く,非休眠卵では24時間から発現が高くなり60時間までその発現が維持されていた。一方,NOSとNovNOS-V遺伝子は浸酸処理を施した直後に発現が高くなることが明らかとなった。 (2)NOSの酵素活性を測定したところ,休眠卵では48時間での酵素活性が高く,非休眠卵では産卵直後の活性が高くその後減少した。遺伝子発現の比較では,休眠卵48時間での遺伝子発現と酵素活性のみ変動パターンが一致したが,その他は一致しなかった。これは,NOSの活性は翻訳後に調節されている可能性が考えられる。また,浸酸処理後0,6,12時間目の卵のNOS活性を測定したところ,6時間目に活性が高い事が判明した。 (3)抗NOS抗体を用いて浸酸処理直後の卵の切片を用いて,免疫組織化学的観察を行ったところ,胚子よりも卵黄細胞にNOSの局在が観察された。この結果より,胚子を取り巻く卵黄細胞がNOSにより作られた一酸化窒素を胚子の方へ放出し,休眠打破を促している可能性が示唆された。しかし,今回のこの観察は,浸酸処理直後の卵の切片でしか行っていないので,浸酸処理後の時間経過に伴うNOSの局在変動を更に詳細に解析する事が必要だと思われる。
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