本研究の目的は、昆虫の休眠における脱皮ホルモンの役割を解明することである。初年度は、計画通り休眠ステージの異なる数種の昆虫に脱皮ホルモン分解酵素タンパク質を注射もしく脱皮ホルモン分解酵素遺伝子を発現させて、休眠が誘導できるかどうかを調べた。老熟幼虫で休眠するオオワタノメイガでは、老熟直後の非休眠幼虫に脱皮ホルモン分解酵素タンパク質を注射することにより蛹化が強く抑制された。この脱皮ホルモン分解酵素処理虫を低温(5℃)に1ヶ月以上おいてから通常の飼育温度に戻すと一斉に蛹化、さらに羽化したことから、脱皮ホルモン分解酵素処理により休眠時と同様の生理状態になっていたことが強く示唆された。今まで、幼虫休眠においては幼若ホルモンの関与を示す結果は数多く報告されているが、脱皮ホルモンの役割はよくわかっていなかった。このことから、脱皮ホルモン濃度が下がるもしくは上昇しないという脱皮ホルモン濃度の推移がきっかけとなって休眠が誘導されることを示した本結果の独創性は非常に高いと考えている。なお、脱皮ホルモン分解酵素遺伝子を発現させた場合には低温処理後もほとんど蛹化がおこらなかったことから、タンパク質の注射に比べて影響がより長期にわたって持続し、そのために低温処理をした場合でも休眠から醒めなかった可能性が考えられる。 オオワタノメイガの他には、チャイロコメノゴミムシダマシ、ハスモンヨトウなど数種の昆虫で脱皮ホルモン分解酵素タンパク質を注射したが、休眠は誘導されなかった。さらに種類を広げて、脱皮ホルモン分解酵素処理により昆虫の休眠が誘導されることの一般性を検証する必要がある。
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