本研究の目的は、昆虫の休眠における脱皮ホルモンの役割を解明することである。昨年度は、オオワタノメイガの非休眠幼虫に対して、緑きょう病菌から同定した脱皮ホルモン分解酵素の組換えタンパク質を注射すると、(1)通常の温度で成長が停止する、(2)低温(4℃)への耐性が増す、(3)一定期間低温においた後に通常の温度に戻すと成長が再開される、という生理状態の変化が見られることから、脱皮ホルモン不活性化酵素処理により休眠と同様の生理状態が誘導されたものと推測した。本年度は、この可能性を検証するため、飼育条件を調整することにより得た休眠虫と非休眠虫で同様の解析を行い、また、休眠虫と非休眠虫の血液中の脱皮ホルモン濃度を比較した。25℃長日(16時間明、8時間暗)条件で飼育して得た非休眠虫を低温下におくと1ヶ月以内に全ての虫が死亡したが、17℃短日(8時間明、16時間暗)条件で飼育して得た休眠虫では低温下でもほぼ全ての個体が1ヶ月以上生存した。さらに、低温下で1ヶ月おいた休眠虫を通常の温度に戻すと成長が再開された。このように、脱皮ホルモン処理した非休眠虫の低温への応答は、休眠虫のものと同一であることが確認できた。さらに、休眠虫と非休眠虫の血液中の総脱皮ホルモン濃度をRIA法により測定したところ、非休眠幼虫では老熟後急増し蛹化直前に600ng/ml程度に増加したが、休眠幼虫では老熟幼虫になっても数10ng/ml程度のまま1ヶ月以上にわたって増加することはなかった。以上の結果から、非休眠虫と休眠虫とでは、実際に血中脱皮ホルモン濃度が大きく異なることも確かめられた。以上、当初計画にある生理学的解析を順調に進めることができた。
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