脱皮ホルモン濃度が低い状態で維持されることが各種の昆虫の幼虫期および蛹期の休眠の維持に必要だということはよく知られているが、これらの虫の休眠を誘導する内分泌シグナルについてはよく分かっていない。そこで、幼虫期に休眠するオオワタノメイガを使って、休眠誘導における脱皮ホルモンの役割を調べた。まず、昆虫病原性糸状菌である緑きょう病菌から脱皮ホルモン22位酸化酵素(Ecdysteroid-22-oxidase : E22O)を精製・単離し、E22Oを使って昆虫体内の脱皮ホルモン濃度を下げる(血液中の活性型脱皮ホルモンを不活性化する)技術を開発した。オオワタノメイガの非休眠幼虫にE22Oを注射したところ、ワンダリング後何も食べず数ヶ月間生き続けた。また、E22O処理虫では低温(5℃)への耐性が増し、一定期間低温においた後に通常の温度に戻すと成長を再開した。これらの成長、生存特性は短日処理により休眠を誘導した幼虫のものと変わらなかったことから、オオワタノメイガの非休眠幼虫にE22Oを注射することにより休眠が誘導されたものと結論した。この結果は、脱皮ホルモン濃度の低下が昆虫の休眠を誘導する内分泌的刺激になりうることをはじめて示したものである。
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