研究概要 |
本研究の調査地、札幌市都市環境林白旗山では、約300年前から約20,000年前までの異なる年代の安山岩質火山放出物が土壌の母材となっており、傾斜地での浸食や再堆積の結果、表層土壌(0cm~30cm)のアロフェン+イモゴライト含量には約7倍(6.5g/kg~44.5g/kg)の変動が見られた。この結果、リン酸イオン吸着の分配係数log Kdがアロフェン+イモゴライト含量の支配を受け(r=0.8211;0.861, P<0.0001)、分配係数log Kdが可給態リンの変動を最もよく説明した。可給態リンは、カラマツの生葉N:Pと有意な相関を示した(r=0.629, P<0.001)。 カラマツの生葉N:P比とカラマツの養分制限の間には、従来から提案されてきた関係とは異なる結果が見られた。従来、生葉N:P比14以下で窒素制限が卓越すると言われてきたが、本調査地ではN:P比16以下で窒素制限が卓越した。一方、従来説では生葉N:P比16以上でリン制限が卓越すると提案されてきたが、本調査地ではN:P比16以上の林分にリン制限と窒素とリンの共制限が混在しており、リン制限と生葉N:P比の間に明瞭な関係が見られなかった。しかし、本研究の当初の期待通り、窒素制限とリン制限が混在しており、こうした事例は温帯林では始めての観測結果となった。 リター分解は温帯林が地球温暖化に関与するプロセスのうち、最も重要なプロセスの1つである。従来、分解過程にはリターの窒素濃度や外部からの窒素添加が大きな制御を行うおことが示されてきたが、リンに関する情報が全くない状態であった。本研究では、リンは窒素ほどの効果を示さないことを明らかにした。また、従来説では窒素添加は難分解性のリグニン化合物の分解を抑制すると提案されてきたが、本研究の結果、窒素添加はむしろ易分解性の有機物の無機化過程に影響を与える可能性が示された。
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