サツマイモの節より無菌的に苗を育成し、体内に細菌が感染していない無菌苗を選抜した。増殖した無菌苗の根に、サツマイモ体内より窒素固定遺伝子(nifH)の保有を指標に分離したBradyrhizobium属細菌、およびジーンバンクより分譲を受けたBradyrhizobium属根粒菌を液体培地で培養し接種した。植物体内における窒素固定は、培地より重窒素ラベルの窒素肥料を供給し、同位体希釈法により評価した。非接種のサツマイモにくらべて、Bradyrhizobium属細菌を接種したサツマイモでは、地上部生育が促進する傾向にあった。また、茎における接種菌の菌数は、新鮮重あたり10^3から10^4CFUのレベルであり、根より感染したBradyrhizobium属細菌は、茎に移行し定着することが明らかになった。また、Bradyrhizobium属細菌のnifH遺伝子を増幅するプライマーを用いて、PCRにより植物体から接種菌の検出を行なったところ、目的とする遺伝子断片の増幅が確認された。一方、非接種のサツマイモからは、複数の培地を用いた培養法でもコロニー形成は認められず、またPCRを用いた方法によっても菌の感染は検出されなかった。これらの一連の研究により、無菌サツマイモを用いた、Bradyrhizobium属内生細菌の接種系が確立された。接種したサツマイモの葉の重窒素同位体比は、非接種のサツマイモにくらべて低下する傾向にあったが、菌を接種した処理区では個体間の変動が大きかった。これらのことから、サツマイモに接種したBradyrhizobium属細菌は容易に感染・定着するが、体内での窒素固定能の発現には一定の条件が必要である可能性が考えられた。
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