本年度は、サツマイモ抽出液中に含まれる、Bradyrhizobium属内生細菌に窒素固定活性を誘導する物質を検討した。サツマイモ植物体中に含まれる有機酸類のうち、モノカルボン酸およびジカルボン酸類は、微好気的な条件でBradyrhizobium属内生細菌に窒素固定活性を誘導した。一方、トリカルボン酸は同様の条件で案素固定活性を誘導しなかった。このことから、Bradyrhizobium属内生細菌は、サツマイモ体中に存在する有機酸の内、モノカルボン酸およびジカルボン酸を利用して窒素固定を行っているものと推定された。一方、グルタミンなどの窒素化合物はBradyrhizobium属内生細菌の窒素固定活性を阻害した。 植物体内で窒素固定の制御因子となる酸素濃度について検討した結果、サツマイモより分離した内生細菌は、酸素濃度約5%以下の微好気的な条件で窒素固定活性を発現することが明らかになった。微小酸素電極を用いて、サツマイモ器官内の酸素濃度を測定したところ、根、茎および葉、それぞれの器官内に内生細菌が窒素固定可能な低酸素領域があることが確認された。Bradyrhizobium属内生細菌をサツマイモの根に接種すると、植物全体に感染が進行することから、地上部においても窒素固定が行われる可能性が示唆された。そこで、Bradyrhizobium属内生細菌を接種したサツマイモでアセチレン還元活性を指標に窒素固定を測定したところ、茎において活性が検出された。 これらのことから、サツマイモに感染する内生窒素固定細菌は、植物体中に含まれる有機酸類をエネルギー源として、組織中の低酸素領域において窒素固定を行うものと推定された。
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