枯草菌のシグマ因子をコードするsigK内にはファージDNA様elementが介在し、胞子形成期にDNA再編成によりsigKが再構築することが知られている。Bacillus weihenstephanensis KBAB4株においては、胞子の耐熱性に関与するジピコリン酸合成酵素のβサブユニットをコードするspoVFB遺伝子内にファージDNA様element(vfbin)が挿入されている。H22年度の研究で、B. weihenstephanensis KBAB4の培養系を確立し、胞子形成過程の形態変化を明らかにした。また、DNA再編成後のspoVFBをシークエンスし、DNA breakpointを決定した。H23年度は、DNA再編成の時期を調べ、培養開始後約16時間後にDNA組換えがおこることを示した。また、細胞内のジピコリン酸を調べた結果、DNA再編成後にジピコリン酸の蓄積が認められた。従って、再構築したspoVFBの産物がジピコリン酸を合成に関与している可能性が示された。次に、DNA再編成後のspoVFBがジピコリン酸合成酵素として機能することを証明する目的で、既にジピコリン酸合成酵素をコードしていることが明らかになっている枯草菌のspoVFBとの相補実験をおこなった。枯草菌spoVFB遺伝子破壊株に再編成前のspoVFB5'側と再編成後の完全なspoVFBを導入したところ、再編成後のspoVFBのみが、枯草菌spoVFB遺伝子破壊株を相補できることがわかった。これらの結果から、有胞子細菌においてsigKのみにファージDNAが挿入される必然性はなく、ファージDNAが胞子形成など細胞分化の際に機能する遺伝子群に挿入され、細胞分化に関与する可能性があると考えられた。
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