大腸菌ペリプラズムでは、DsbAが基質である分泌タンパク質にジスルフィド結合を導入する。本研究ではそのメカニズムを明らかにすることを目的にしている。今年度は、主に,前年度に引き続き次の2つのタンパク質について解析をおこなった。 (1)大腸菌外膜βバレルタンパク質LptD(LptDとImpは同一のタンパク質;以下、LptDを使います) LptD/LptE複合体は大腸菌の外膜でリポ多糖を運ぶためのトランスロコン(輸送装置)として機能する。このうち、LptDは、分子内に2組のジスルフィド結合をもつ。本研究でLptDの生合成の過程で形成するジスルフィド結合形成中間体の構造を詳しく調べたところ、最終的な局在部位である外膜への輸送と、パートナーであるLptEとの複合体形成に依存して、LptD分子内のジスルフィド結合の再配列が誘起され、LptDが活性型のタンパク質に折り畳まれることが分かった。複合体中、 LptD部分がリポ多糖を輸送するための孔を形成するのに対して、LptE部分は孔を制御するための栓として働く。よって、このジスルフィド結合形成システムは、LptDの無秩序な活性化を抑制し、LptDが機能すべき場所で、適切な制御因子の存在下、活性化し、働くことを可能にする仕組みだととらえることがでる。この成果は2012年9月にScience誌に発表した。 (2)大腸菌ペリプラズム酵素PhoA 前年度私はPhoAのN末側のジスルフィド結合が形成される際の中間体を検出することに成功した。本年度は、この中間体の構造を調べた。その結果、ジスルフィド結合を形成するPhoAのN末側の2個のシステインのうちの特定のシステインだけがDsbAとの共有結合複合体の形成に使われることが判明した。なぜ、基質上の特定のシステインのみが酵素との中間体形成に使われるのかは今後の重要な課題である。
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