我々は、GPIの生合成を調節する遺伝子の機能を研究する過程で、GPI生合成が酵母のアポトーシスに重要な役割を果たしていることを見出した。また、GPI生合成遺伝子と小胞体ストレス応答に必要な遺伝子の二重変異株は合成的な生育障害を示すことから、それらの遺伝子の間に機能的関連があることが示唆された。小胞体ストレスが閾値を越えると、細胞はアポトーシスを引き起こすことが知られている。そこで、本研究では、GPI生合成異常によるアポトーシスの誘導に小胞体ストレスが関与しているかどうか、さらに、小胞体からのアポトーシスシグナルがミトコンドリアへ伝達されることが細胞死の実行に必要であるかどうかについて解析を行った。その結果、未成熟GPIアンカータンパク質を蓄積するGPI生合成異常株ではストレス誘導剤ツニカマイシンに対する感受性が増加し、小胞体ストレスによって誘導される分子シャペロンの発現が上昇、さらに、ストレスによって引き起こされる小胞体の形態異常を呈したことから、GPI生合成異常株では小胞体ストレスが起こっていることが示された。次に、小胞体から細胞質へ放出されるカルシウムは小胞体ストレスをミトコンドリアへ伝達するアポトーシスシグナルの1つであることから、GPI生合成異常株の細胞質カルシウム濃度を測定した。その結果、GPI生合成異常株では細胞質カルシウム濃度が上昇していることが認められ、細胞質カルシウム濃度とアポトーシス誘導能の間には正の相関があることが明らかとなった。また、GPI生合成異常株では活性酸素種の蓄積やミトコンドリアの断片化も観察された。以上の結果より、GPI生合成異常によるアポトーシスの誘導は、未成熟GPIアンカータンパク質の蓄積による小胞体ストレスが引き金となり、細胞質カルシウム濃度に依存したアポトーシスシグナルがミトコンドリアへ伝達されて、引き起こされることが示唆された。
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