我々はこれまでに、GPI生合成を調節するARV1遺伝子の破壊株の温度感受性を抑圧する多コピーサプレッサーをスクリーニングし、DEP1、UPF1、EBP1の3つの遺伝子を取得した。これらの遺伝子は、破壊するとテロメア長が短小化することが知られている。また、ARV1も破壊するとテロメアが短小化することが報告されている。これらの結果は、GPI生合成とテロメアの構造あるいは機能の間に何らかの関連性がある可能性を示唆している。テロメアは、細胞の寿命や死に重要な役割を果たしており、テロメアが短縮すると、DNAダメージとして認識され、細胞増殖の停止やアポトーシスの誘導が起こる。以前の我々の解析により、酵母の寿命とアポトーシスはGPI生合成によって調節されていることが明らかになった。そこで、本研究では、この細胞死にテロメアが関与するか否かについて解析を行った。その結果、arv1Δ破壊株のAbAに対する抵抗性と生存率の低下は、テロメアの構成遺伝子の過剰発現により軽減された。さらに、GPI生合成遺伝子変異株では、テロメアの核膜周辺でのクラスター形成に異常が生じること、その異常はテロメアの構成遺伝子の過剰発現により抑圧されることがわかった。クラスター形成の異常はアポトーシスの実行因子である酵母カスパーゼ遺伝子YCA1の破壊によっては抑圧されなかったことから、クラスター形成の異常は細胞死の上流で起こることが示唆された。以上の結果から、GPI生合成によるアポトーシスの調節にテロメアの構造が深く関わっていることが示唆された。
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