研究概要 |
当初の研究目的、計画に従い以下の成果を得た。 青枯れ病菌ファージRSL1ゲノム(231,255 bp)に検出した343個の遺伝子(ORF)について、DNAマイクロアレイ法により感染期における発現性を調べ、初期遺伝子クラスター、早期遺伝子クラスター、中期遺伝子クラスター、後期遺伝子クラスターに分けマップ上に塗り分けた。RSL1ゲノムは遺伝子の配向性、遺伝子発現パターンから4つの領域に区別され、基本的に2種の異なるレプリコンの合体により進化したものと推定された。 さらに、343個の遺伝子の中でRSL1の持続的感染期に特に強く発現する遺伝子12種をDNAミクロアレイ法で同定した。それらのうち3種(ORF106、NAD生合成系遺伝子;ORF137,未知遺伝子;ORF179、holin遺伝子)を大腸菌にクローニングし、さらにpRSS13を用いて青枯れ病菌に導入し影響を調べた。ORF106は異なる菌株で増殖促進効果を示し、一方、ORF137は明確な増殖抑制を示した。holin遺伝子は大腸菌の増殖を阻害した。RSL1ファージ感染により宿主青枯れ病菌は運動性を失い、菌体外多糖、菌体外グルカナーゼ等病原因子を低下させ、トマトへの感染能力を完全に失った。RSL1ファージ感染は宿主菌を完全に溶菌することなく、ファージと菌体の共存状態が保持された(平衡状態)。この状態でファージ耐性菌の増殖をORF137のような増殖阻害因子が抑制していると推定された。すなわちRSL1の有する多くの遺伝子は、宿主菌の生理状態に作用し従来知られていないファージ・宿主菌共存状態の維持に働くと思われる。ファージと菌体の共存状態は結果的に植物に対する病原性の喪失につながり、安定的な青枯れ病のバイオコントロールを行うことができる。このように青枯れ病菌巨大ファージRSL1ゲノムに検出した343個の遺伝子に発現パターン塗り分け、機能解析の当初目的を達成できた。
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