研究課題
Thermus属がシリカ沈殿を形成する生理学的な意義を理解するために、様々な抗生物質とシリカを共存させた系においての菌の挙動について検討を行った。バイオシリカの生理学的意義に関しては、シリカに包埋されることによるUV耐性の向上が報告されているが、それ以外に関する報告はない。本研究では、膜の構造を破壊するコリスチン、ポリミキシンなどの抗生物質に対して、シリカ添加時の菌の増殖が増大する結果が得られ、菌によって形成が促進されたバイオシリカが細胞膜の保護に機能していることが示唆された。本条件下では、ゲノム上のいかなる薬剤耐性遺伝子も転写増大しておらず、この抗生物質耐性獲得の要因がバイオシリカ形成によるものであることが示された。また、シリカ刺激によって発現量が著量増加したsipは鉄結合性ABCトランスポーターのsolute-binding proteinと高い相同性が示されたが、鉄結合性ABCトランスポーターは、近接した遺伝子上にコードされたsolute-binding protein、permiase、ATPaseから構成され、一般に病原菌の宿主への感染、病原性の発露時や菌体の鉄欠乏状態時に鉄取り込みに機能するとされるが、シリカとの関連性は報告されていないため、sipの発現機構を解明した。まず、転写開始点をプライマー伸長法及び5'-RACE法にて決定し、プロモーター部位を推定した。次に、過飽和シリカ添加培地および鉄除去培地中でそれぞれ培養した菌体からmRNAを精製し、ノーザンハイブリダイゼーション及びqRT-PCRを行ったところ、sipはモノシストロニックに転写され、過飽和シリカおよび鉄飢餓刺激の両条件で著しい転写誘導が認められた。このことから、sipの発現は、溶在するコロイド状シリカ表面に鉄イオンが吸着して生じる鉄欠乏を端緒とすることが示唆された。
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