研究概要 |
単糖N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)のβ-1,4-グリコシド結合から成るポリマーであるキチンは、エビやカニなどの甲殻類の殻を構成する主要な構造多糖であり、バイオマス糖質としてもその利用が期待されている。キチン糖化物であるGlcNAcやそのオリゴ糖には様々な有用生理活性が報告されているが、環境に負荷のかからない方法であるキチンの酵素糖化については未だ良い方法が開発されていない。その理由として、キチン加水分解酵素であるキチナーゼを安価に入手することが困難であることが挙げられる。そこで、本研究では、キチン糖化にキチナーゼ酵素製剤を用いるのではなく、リコンビナントキチナーゼ高分泌能を有するキチンオリゴ糖非資化性大腸菌を作成し、それを粉末状キチン添加培地中で培養することによってキチナーゼを連続的に生産・分泌させながら難分解性である結晶性キチンを糖化する方法の開発を目指した。本方法では、キチナーゼを抽出・部分精製する必要が無いので、簡便かつ安価にキチン糖化を行うことができる。 本年度は、1)Vibrio属細菌のキチナーゼ遺伝子を分泌シグナル配列と共に大腸菌内発現用ベクターに導入して得られたプラスミドを、キチンオリゴ糖資化能の低い大腸菌HMS174(DE3)株に導入し、2)得られた遺伝子組換え菌を用いた発酵法によるキチン糖化の実験を行った。その結果、キチン分解が進行するにしたがって、培地中へのオリゴ糖の蓄積量が高まって行くことが確認できた。以前、大腸菌BL21(DE3)株を用いて同様な実験を行ったが、本菌のキチンオリゴ糖資化能が高いため、この時はキチンオリゴ糖の蓄積は僅かであった。これらのことから、大腸菌HMS174(DE3)株は、BL21(DE3)株と比べるとオリゴ糖資化能の低い菌であることが、このような良い結果をもたらせたものと考えている。今年度の成果によって、本研究の目的をおおむね達成することができた。
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