研究概要 |
本研究の目的は、活性、溶解性、安定性が向上した逆転写酵素を用いたcDNA合成法やRNA増幅法では、野性型の逆転写酵素を用いた場合よりも感度・迅速性が向上し、プライマー設計が容易になることを実証し、cDNA合成法やRNA増幅法の用途を拡大させることである。平成22年度の研究成果は以下のとおりである。(1)部位特異的変異導入による逆転写酵素の熱安定化のメカニズムの解析:分子内に正電荷を導入した耐熱型MMLV RTであるE286A/E302K/L435R(MM3)とE286A/E302K/L435R/D524A(MM4)の鋳型プライマー(T/P)に対するK_mはそれぞれ2.2, 3.3μMであり、野性型MMLV RT(WT)とRNase H活性を消失させることにより耐熱性を獲得した変異型MMLV RTであるD524AのK_m(それぞれ8.4, 5.2μM)より小さかった。このことから、MM3とMM4はD524AとWTよりもT/Pに対する親和性が高いことが示された。(2)耐熱化MMLV RTを用いたRT-PCRおよびRNA増幅法の性能評価:Bacillus cereusのcesA(毒素合成タンパク質の遺伝子)のmRNAを標的とするRT-PCRにおいて、WT、D524A、MM3、MM4を用いてcDNAが合成される最高温度はそれぞれ、54、56、60、60℃であった。このことから,MM3とMM4を用いると、より高温でcDNA合成ができることが示された。(3)AMV RTの高機能化:昆虫細胞を宿主とした組換えAMV RTαサブユニットの調製法を確立した。AMV RTαサブユニットをT/P非存在下あるいは存在下で10分間熱処理したときに活性が50%に低下する温度(T_50)はともに45~46℃であった。一方、天然のAMV RT(αβのヘテロダイマー)のT_50はT/P非存在下では48℃、T/P存在下では51℃であった。このことから、αサブユニットは天然のAMV RTよりも熱安定性が低く、天然のAMV RTと異なり、鋳型プライマーにより安定化されないことが示された。すなわち、αサブユニットとβサブユニット間の相互作用がAMV RTの安定性に重要であることが示唆された。
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