研究概要 |
本研究の目的は、活性、溶解性、安定性が向上した逆転写酵素を用いたcDNA合成法やRNA増幅法では、野性型の逆転写酵素を用いた場合よりも感度・迅速性が向上することを実証し、cDNA合成法やRNA増幅法の用途を拡大させることである。平成23年度の研究成果は以下のとおりである。(1)部位特異的変異導入によるAMV逆転写酵素・サブユニットの熱安定性の向上:AMV RTとMMLV VRTのアミノ酸配列は23%の相同性をもつ。耐熱性の変異型MMLV RTであるE286A/E302K/L435R/D524Aに相当する変異型AMV RT・サブユニットV238R/L388R/D450A(AM4)を作製した。T/PへのdTTPの取込み活性を指標とした熱安定性を調べたところ、T/P非存在下および存在下におけるT50(10分間の熱処理により逆転写活性を50%に低下させる温度)は、AM4では500Cであり、野生型AMV RT・サブユニット(WT)では44℃であった。cDNA合成活性を指標とした熱安定性を調べたところ、PCRで増幅産物が得られたcDNA合成反応の反応温度の上限は、AM4では64℃であり、WTでは60℃であった。このようにAM4はWTよりも高い熱安定性を有した。このことから、部位特異的変異によりT/Pとの結合領域に正電荷を導入して逆転写酵素の熱安定性を向上させる方法は、MMLV RTに対してだけではなくAMVRTに対しても有効であると考えられた。(2)組換えHIV-1逆転写酵素の調製と性状解析:ヒト免疫不全ウイルス1型逆転写酵素(HIV-1 RT)は分子量51,000のp51と66,000のp66から成るヘテロダイマーである。HIV-1タイプMRTを大腸菌で発現させ、(p51)2、p51/p66、(p66)2を調製した。(p51)2、p51/p66、(p66)2のT/PへのdTTP取込み反応の比活性はそれぞれ、660、4,400、4,500units/mgであった。いずれのRTもcDNA合成反応時の濃度が0.07-70nMではcDNAが合成されたが、それより高い濃度では合成されなかった。(p5D2を用いたときの増幅産物の量は他のRTを用いたときよりも顕著に少なかった。(p51)2、p51/p66、(p66)2のT50はそれぞれく42、44、44℃であった。このことから、(p51)2、p51/p66、(p66)2はいずれも逆転写活性をもつことと、 p51/p66と(p66)2の活性と熱安定性は(p51)2よりも高いことが示された。
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