アセロラは、熱帯植物の一つであるが、アスコルビン酸を、特に、果実に大量に蓄積し、その含量はレモンの20倍以上にも達する。本研究では、なぜアセロラがアスコルビン酸を高含量含むことができるか、その分子機構を解き明かすとともに、アスコルビン酸増強を目的として、アセロラのアスゴルビン酸の生合成酵素等の遺伝子を植物に導入発現させ、アスコルビン酸高含量植物を作出することを目的とした。 アスコルビン酸を生合成する酵素として知られるGDP-D-mannose pyrophosphorylaseについて、リアルタイムPCR法を用いて、アセロラのmRNA発現とシロイヌナズナのmRNA発現を比較した。その結果、アセロラのGDP-D-mannose pyrophosphorylaseのmRNA発現はシロイヌナズナのものに比べ非常に高いことがわかった。また、その他のアスコルビン酸生合成酵素のmRNA発現についてもアセロラとシロイヌナズナの発現と比較した結果、アセロラの発現がシロイヌナズナのものに比べ著しく高かった。さらに、アセロラのGDP-D-mannose pyrophosphorylase遺伝子のプロモーター解析を行った結果、そのプロモーター活性は、植物の高発現プロモーターとして知られているcauliflower mosaic virus 35SプロモーターやシロイヌナズナのGDP-D-mannose pyrophosphorylase遺伝子のプロモーターより高かった。これらのことから、アセロラのアスコルビン酸生合成酵素の転写活性が高いことが、アセロラのアスコルビン酸の生合成能を高め、結果的にアセロラのアスコルビン酸含量が著しく高くなることが明らかになった。 アセロラのアスコルビン酸生合成酵素GDP-D-mannose pyrophosphorylase遺伝子をタバコに導入し、過剰発現させたところ、タバコのアスコルビン酸含量は野生植物の約2倍に増大した。また、アセロラのアスコルビン酸リサイクリング酵素monodehydroascorbate reductaseのcDNAを導入した形質転換タバコではアスコルビン酸含量が高まり、塩ストレスに対して抵抗性を示した。このように、本研究は、応用的にもアスコルビン酸高含量ストレス抵抗性植物の開発へと道を開くもので興味深く、今後の実用化レベルの研究が期待される。
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