研究概要 |
Trichothecium roseumの生産するがん予防活性(=抗発がん促進活性)セスキテルペンTTC-A,B,Cを量的に確保するためのタンク培養の前に、入手可能なT.roseum菌株6種を寒天培地にて培養した。培地を抽出して得られた残渣をHPLC分析に付し、TTC-Aの保持時間付近にピークが観察され、かつエキス量の多い菌株を選別した。一方、エキスからの分離の指標となるTTC-Aが有する炎症や二重活性となる発がん促進活性の影響を調べるために、今回、新しい細胞系の確立に挑戦し成功した。本細胞系は、センカマウスの皮膚から樹立したSST細胞(SENCAR mouse skin transformed cell)であり、発がん促進剤に感受性が高いという今までにない特徴をもつ。したがって、今までマウスを用いていた炎症活性を細胞レベルで観察できるようになったことで、エキスからの活性成分の探索の効率が向上した。 一方で、TTC-Aの抗発がん促進活性物質としての細胞内での役割についての知見を得ることができた。TTC-Aは、発がんプロモーターTPAの存在下では、抗発がんプロモーターとして作用する。TPAのみとTPAならびにTTC-Aの両方で処理したマウス皮膚からそれぞれDNAを既存の方法により抽出し、PCR法にて遺伝子を増幅した。増幅したDNAをゲル電気泳動法にて観察すると、TPAのみで処理をしたマウス皮膚のDNAではras遺伝子の増幅が観察された。一方、TTC-Aを同時処理したマウス皮膚のDNAでは、ras遺伝子の増幅は認められなかった。それゆえ、TTC-Aは、細胞内ではras遺伝子に特異的に作用することが示唆された。
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