研究概要 |
生化学的研究を推進するとともに、前年度に引き続き、Trichothecium roseumの生産するがん予防活性(=抗発がん促進活性)セスキテルペンTTC-A,B,Cの量的確保を目指した菌株の選別と培養条件の検討を行った。入手可能な6種にうちNBRC6157がTTC-Aを高選択的生産することが判明し、培養条件の改良を重ねたところ、一方、TTC-Aのピーク以外にも類縁体に由来すると推定される多数のピークが認められ、これをHPLCにて分取した。構造活性相関研究基盤の確立も本研究における重要な必達目標のひとつであるため、現在構造解析を集中して行っているところである。 発がんプロモーターとしてのTTC-Aは炎症作用を示すことから、その作用機序を探る上で通常用いてきたRaji細胞に加え、炎症の新しい細胞系の確立に成功したことは報告済みである。本細胞系は、センカマウスの皮膚から樹立したSST細胞(SENCAR mouse skin transformed cell)であり、発がん促進剤に感受性が高いという今までにない特徴をもつため、炎症活性を細胞レベルで観察できる。TTC-AをSST細胞に添加したところ、紡錘形のSST細胞は死ぬことなく、丸みを帯びた形に形態変化を起こした。一方、発がんプロモーターTPAの添加でも同様の変化が観察された。したがって、Raji細胞の多核化ならびにSST細胞の形態変化の原因追究が、TTC-Aのもつ生化学的特徴解明につながることが明らかとなった。TTC-Aを添加した細胞からタンパクを抽出し、ウエスタンブロッティングを行ったところ、少なくともMAPKを刺激していることが推定できた。現在、発現タンパクの詳細な同定を行っている。
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