研究概要 |
22年度からの課題でもあるTrichothecium roseumの生産する抗発がんプロモーター活性ならびに発がんプロモーター活性を同時にもつ二重活性のセスキテルペンであるTTC-Aの量的確保は,菌株の選択(IFO5772)と培養条件の工夫で達成された。本研究課題のさらなる展開が可能となった。また,構造活性相関の基盤となる新規TTC類の発見を目指して行った実験から単離できた化合物群は,既知であるか,あるいはトリコテセン類ではないことが判明した。そこで,新たな培養条件を検討し,既存のTTC類や上記化合物群とはHPLCにおいてその保持時間のさらに異なる多数成分を含むエキスの確保に成功した。 センカマウス皮膚由来の形態変化の原因追究が,Raji細胞の多核化現象解明の糸口となるという想定のもと,TTC-AをSST細胞に添加した。細胞からタンパクを抽出し、ウエスタンブロッティングを行ったところ、前年度推定した少なくともMAPKを刺激していることは再確認できたが,具体的にどのようなタンパクが発現しているのかを決定するまでには至らなかった。一方,発がんプロモーターではあるがTTC-AのもつRaji細胞の多核化現象を誘発しないフモニシンは,TTC-Aとは異なりras遺伝子には作用せず,セラミド合成酵素を阻害し,その結果,細胞周期の調節や細胞分化に障害をもたらす。この知見と本研究で得られた実験結果を総合して考察すると,TTC-AによるRaji細胞の多核化は,ras遺伝子の関与するシグナル伝達により制御される細胞周期の調節や細胞分化の結果生じたものと推定された。
|