研究概要 |
不溶性食物繊維(IDF)の解析には種々の物理化学的性質を除外し、嵩の効果のみを評価できるモデル素材として発泡スチロール粉末(PSF粉末)を用いた。PSFは発泡度を調節することで、嵩のみを変化させることができる。IDFの嵩効果は水中沈定体積(SV)として数値化した。その結果、SV値の異なるPSFを添加した飼料を摂取させたとき、ラットの小腸ムチン量はSV値の上昇に比例して増加し、この法則性はSV値の異なる天然のIDFにも適用できることが明らかになった。次いで、嵩効果による小腸ムチン量および腸上皮の杯細胞(ムチン分泌細胞)数の変動を慎重に測定し、PSF摂取の有無によるムチン分泌促進作用の発現と消失はともに3-5日目で起こることを見出した。嵩効果は腸上皮細胞のturnoverと連動すると考えられる。一方、水溶性食物繊維(SDF)の溶液中粘度は同一種内ならほぼ分子量に比例する。コンニャクマンナン(KM)添加飼料では、小腸ムチン量および杯細胞数はKMの分子量に応じて増加し、これらの変化はセルラーゼの同時摂取で完全に消失した。そこで、グアガム、サイリウムなど数種のSDFについて1%水溶液の粘度を測定し、ズレ速度50~500sの粘度カーブ下面積(LogAUC)を算出したところ、これらのSDF摂取時の小腸ムチン量および杯細胞数はLogAUCと強い正の相関を示した。このようにSDFでは粘度上昇がムチン分泌を促進する。ところが、PSFやKMを摂取したラットの腸上皮細胞を採取し、小腸ムチンの主要分子種であるMuc2, Muc3のmRNA発現量を測定しても有意な変化は認められず、Muc3ではむしろ低下する結果が得られた。したがって、IDFやSDF摂取時のムチン分泌促進作用は杯細胞への分化促進を介した基礎分泌量の増大によると考えられた。
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