血漿ホモシステイン(Hcy)濃度は動脈硬化の危険因子として知られている。本研究は食餌因子によりHcy代謝がどのような機構で影響を受けるのかを明らかにしようとしたものである。21年度の研究成果の概要は下記の通りである。 (1)葉酸欠乏に起因する高Hcy血症に及ぼすベタイン投与の影響ならびにコリン欠乏に起因する高Hcy血症に及ぼす葉酸投与の影響をラットを用いて検討した。葉酸欠乏およびコリン欠乏で明確な高Hcy血症が惹起されたが、これらの高Hcy血症に対するベタインあるいは葉酸投与の抑制効果は部分的であった。再メチル化によるHcyの代謝には葉酸関与とベタイン関与の2つの経路があるが、得られた結果はHcyの円滑な代謝には両経路が必要であることを示すもので、片方の経路が他の経路を十分には代替できないことを示唆している。 (2)コリンもビタミン様化合物である。Met含量の低い食餌からコリンを除去すると容易に高Hcy血症が惹起することを我々は見いだしている。コリンはMetからもメチル化経路で生成するので、Metを多く含む高タンパク質食からコリンを除いてもコリン欠乏に起因する脂肪肝や高Hcy血症は起こらない。血漿Hcy濃度に及ぼす食餌コリンとMetとの関係を明らかにするため、コリン欠乏による高Hcy血症に及ぼすMet投与の影響を検討した。食餌への0.2~0.3%程度のMet添加は血漿Hcy濃度を効果的に抑制したが、0.5%以上のMet添加は高Hcy血症を抑制しなかった。一方、0.5%Metと一緒に2.5%Serを添加すると高Hcy血症は顕著に抑制された。これらの結果は、少量のMetはコリン欠乏に起因する高Hcy血症を抑制しうること、また、比較的高レベルのMetでもSerが十分に存在すれば高Hcy血症抑制効果を有することを示している。 これらの結果は、血漿Hcy濃度の制御に関する新たな知見であり、価値あるものと考えられる。
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