研究概要 |
血漿ホモシステイン(Hcy)濃度は動脈硬化の危険因子として知られている。本研究は栄養学の立場から、血漿Hcy濃度を制御するための栄養・食餌条件の検討とそれらの作用機構を明らかにしようとしたものである。22年度の研究成果の概要は下記の通りである。 (1) 葉酸はHcy代謝に大きな影響を及ぼすビタミンである。前年度に葉酸欠乏による高Hcy血症に及ぼすベタインの効果を検討したので、今年度はベタイン欠乏(ニコリン欠乏)に及ぼす葉酸投与の影響をラットを用いて詳しく検討した。その結果、ベタイン欠乏による高Hcy血症に対して葉酸投与は有意な抑制効果を示すものの、その効果の程度は小さかった。また、Hcy代謝に関る各種酵素の活性や遺伝子発現などについても詳しく解析した。葉酸は欠乏すると簡単に改善されない高Hcy血症をもたらすが、逆に葉酸を比較的多量に投与しても他のタイプの高Hcy血症を十分に改善できないことが分かった。 (2) ベタインはHcy代謝を促進するが、そこに関与するのはベタイン-Hcyメチル転移酵素(BHMT)という酵素である。Hcy代謝におけるBHMTの役割を明確にするため、BHMTの活性と遺伝子発現に影響を及ぼす食餌因子の解明を目的として各種実験を行なった。Met,Cys,コリンなどはいずれもBHMTの活性と遺伝子発現を増加させる。その機構を解析し、MetやCysなどの含硫アミノ酸は肝臓のCys濃度の上昇を介してBHMTの遺伝子発現を上昇させている可能性が示唆された。一方、コリンの効果は肝臓ベタイン濃度の上昇と相関していたが、ベタインの作用機構についてはなお検討すべき余地がある。 (3) 低Met食に少量のCysを添加すると血漿Hcy濃度は低下するが、同時に脂肪肝が生成することを見いだし、この機構を検討した。Met/Cysの比が脂肪肝生成に関与していることを明確にした。 得られた結果は、血漿Hcy濃度の制御に関する新しい知見であり、価値あるものと考えられる。
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