(1)BHMT (betaine-homocysteine N-methyltransferase)はHcy代謝に関わる3種の酵素のうちの一つで、ベタインのメチル基をHcyに転移する反応を触媒する。BHMTが関与する反応は血漿Hcy濃度調節において極めて重要な役割を果たしているので、BHMT活性が食餌中のどのような因子により影響を受けるのかをラットを実験動物として用い検討した。肝臓のBHMT活性および遺伝子発現は食餌中のMetやCys含量の増加に伴い上昇し、また、食餌中のコリンやベタイン含量の増加にも敏感に反応して上昇することが明確になった。BHMTのこの性質はHcy代謝に関わる他の2つの酵素と大きく異なる点である。特に、Hcyの生成をもたらすMetの投与によりBHMT活性が上昇することはMetサイクルからのHcyの除去という観点からは不利な現象であり、これはMetが高Hcy血症をもたらし易いことと関係していると考えられた。 (2)MS (methionine synthase)はBHMTとならんでHcyの再メチル化を触媒する酵素で、血漿Hcy濃度調節において重要な役割を果たしている。この酵素は5-メチル葉酸を基質としビタミンB12を補酵素とするので、これらビタミンの影響を受ける。例えば、葉酸欠乏により酵素活性は低下し、血漿Hcy濃度は上昇する。MS活性や葉酸が欠乏してもBHMT活性やベタイン濃度が正常に保たれていればHcy代謝はかなり円滑に進むはずなのに、実際はこれとは異なる。そこで、葉酸欠乏ラットを用いHcy代謝に及ぼすベタインの効果を検討した。得られた結果は、葉酸欠乏状態ではMSによるHcy再メチル化のみならずBHMTによるHcy再メチル化も低下していることが示された。葉酸欠乏が容易に血漿Hcy濃度を上昇させるのはHcyの再メチル化に関わる2つの反応がともに低下するからであると結論された。これらの結果は動脈硬化危険因子である血漿Hcyの調節に関して有益な知見であると考えられる。
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