高脂血症薬として長期経口投与されるニコチン酸は心筋細胞そのものに対しても直接的な保護作用を発揮する。長寿因子Silt1を活性化すると細胞のストレス抵抗性と生存が促進されること、さらにニコチン酸がSirt1の活性に必要なNADの細胞内濃度を増加させるための最も優れた前駆体であることから、ニコチン酸が細胞内NADレベルを増加させSht1を活性化させることにより心筋保護作用を発揮しているのではないかと考えた。本研究では、酸化ストレス負荷によるラット心筋の細胞死がニコチン酸によるSirt1の活性化を介して抑制されるか、を明らかにすることを目的に、(1)ニコチン酸が心筋細胞内のNADレベルを増加させるか、(2)ニコチン酸が酸化ストレスによる心筋細胞死を抑制するか、(3)ニコチン酸による細胞死の抑制がSirt1の活性化を介したものか、について解析する。本年度において、新生ラットの心臓から調製した心筋初代培養細胞がニコチン酸からのNAD生合成経路に関わるすべての酵素を発現していることを見出した。さらに放射性ニコチン酸を用いた酵素活性の測定により、この経路の最初のステップを触媒する重要な酵素であるニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼの活性を心筋細胞において確認した。これらの酵素の発現に一致して、培養液へのニコチン酸の添加は心筋細胞内のNADレベルを増加させた。以上の結果から、心筋細胞へのニコチン酸投与により長寿因子Sirt1が活性化されることが強く示唆された。今後さらに上記(2)(3)を解析することにより、ニコチン酸の心筋保護作用がSirt1の活性化を介したものであるかが明らかとなる。これらの研究結果は心疾患の予防と治療のための有用な手段の開発につながる。
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