高脂血症薬として長期経口投与されるニコチン酸は心筋細胞そのものに対しても直接的な保護作用を発揮する。長寿因子Sirt1を活性化すると細胞のストレス抵抗性と生存が促進されること、さらにニコチン酸がSirt1の活性に必要なNADの細胞内濃度を増加させるための最も優れた前駆体であることから、ニコチン酸が細胞内NADレベルを増加させSirt1を活性化させることにより心筋保護作用を発揮しているのではないかと考えた。本研究では、酸化ストレス負荷によるラット心筋の細胞死がニコチン酸によるSirt1の活性化を介して抑制されるか、を明らかにすることを目的に、(1)ニコチン酸が心筋細胞内のNADレベルを増加させるか(2)ニコチン酸が酸化ストレスによる心筋細胞死を抑制するか(3)ニコチン酸による細胞死の抑制がSirtlの活性化を介したものか、について解析する。21年度において、新生ラットの心臓から調製した心筋初代培養細胞がニコチン酸からのNAD生合成経路に関わるすべての酵素を発現し、培養液へのニコチン酸の添加が心筋細胞内のNADレベルを増加させることを見出した。この結果に一致して、22年度においては、心筋細胞へのニコチン酸投与により、細胞内NADレベルの増加に依存して、H_2O_2による細胞傷害性が軽減されることを見出しつつある。このことはニコチン酸により長寿因子Sirt1が活性化され、その結果、心筋保護作用が発揮されることを強く示唆している。今後さらに上記(2)を確認すると共に(3)を解析することにより、ニコチン酸の心筋保護作用がSirt1の活性化を介したものであるかが明らかとなる。これらの研究結果は心疾患の予防と治療のための有用な手段の開発につながる。
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