消化管が食物と接触しない状態が長く続くと、消化管粘膜の萎縮やバリアー機能の低下が起こり、栄養吸収障害が現れる。このことは、消化管粘膜が食物やその消化物との接触を通してその機能を維持していることを示している。我々は細胞増殖因子様リン脂質・リゾホスファチジン酸(LPA)が野菜の消化め過程で多量に生成することなどから、LPAが消化管粘膜維持に効く因子の1つと考えている。さらに、我々は食物成分にはLPAの他にも消化管粘膜維持に効く因子が存在する、と考え、食物由来の生理活家物質を検索している。本年度はリン脂質消化物として種々のリゾリン脂質の作用を調べた。その結果、リゾホスファチジルイノシトール(LPI)に細胞遊走促進活性を見出した。LPIの作用濃度は10uM程度であり、LPAのそれの10倍高濃度であった。従って、LPA受容体に対する部分アゴニストとして作用している可能性もあるが、既に報告されている特異的受容体GPR55を介する可能性も否定できない。今後、LPIの作用メカニズムを検討すると共に、消化管粘膜細胞の増殖やムチン産生試験も行い、LPIがLPAと共に粘膜上皮維持に効く因子に位置づけられるかどうかを検討する。一方、今回、我々はキャベツ脂質中の未知リン脂質をフィトセラミド-1-リン酸と同定できた。この新規スフィンゴリン脂質には細胞形態を変化させる生理作用が観察きれた。今後、この作用のメカニズムやその生理的意義および生合成経路を明らかにしたいと考えている。
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