具体的内容:知床地域を対象に、1990年以降のヒグマの駆除データと環境変量を集計した。ヒグマの駆除合計数を目的変数、ヒトとヒグマの活動領域の重なりを示す8指標を説明変数とする一般化線形モデル(GLM)を解き、ヒグマとヒトの軋轢が発生するエコトーンを明らかにした。集計単位には、1M(25km^2)5M(125km^2)の二種類を用い、最適な集計単位の探索も行った。解析の結果、年間通して軋轢の発生している空間(漁師小屋周辺、森林と市街地のエコトーン)や、季節性のある軋轢発生空間(森林と畑地のエコトーン、サケ遡上河川と市街地のエコトーン)があることが判明した。また、オスは5Mで、メスは1Mでモデルの適合性が高くなる傾向があり、これは行動圏の広さと対応すると考えられた。 意義:北アメリカに生息するgrizzly bear (Ursus arctos horribilis)や、日本に生息するツキノワグマ(Ursus thibetanus)については、軋轢の発生を予防するため、軋轢を引き起こしやすい広域的な環境特性の把握が進められてきた。しかし、日本では地域的な絶滅危惧に瀕するヒグマ(U.arctos yesoensis)については、このような知見は決定的に不足していた。経験的に語られてきた軋轢空間の特性が定量化できた意義は、今後、軋轢回避の対策を立てるうえで大変大きい。 重要性:これまでも空間解析をするうえで、集計単位を野生動物の行動圏に応じて変化させる必要性が議論されてきた。今回の解析では、同じヒグマでも行動圏の異なる雌雄で、軋轢発生の空間特性を解析する最適な単位が異なることが明らかになった。また、軋轢発生空間に季節性があることも明らかになった。 これらは、今後、知床以外の異なる地域に本解析を応用させるうえで、非常に重要な知見である。
|