研究課題/領域番号 |
21580179
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
向井 讓 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (80283349)
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キーワード | コナラ / 人工交配 / 花粉管伸長 / 自家不和合性 / DNA多型 |
研究概要 |
ブナ科における自殖回避機構を明らかにするため、本年度は(1)花粉管の伸長過程と受精時期の調査(2)DNAマーカーを用いた受精時期の検討、(3)シードトラップにより採取した落下堅果の虫害率の解析を計画した。 その結果、(1)受粉~堅果成熟の各段階で採集し、FAAで固定した雌花を1規程水酸化ナトリウム溶液中で加熱して軟化させ、脱色アニリンブルーで染色し、花粉管の伸長を観察した。コナラでは花粉管の伸長距離を正確に計測することはできなかったため、コナラと同様に自家不和合を示すサクラを用いて花柱内における花粉管の到達位置の計測法を検討した。サクラでは自家花粉で受粉させた場合、花柱の中央部付近で花粉管の伸長が停止すること、和合(他家)花粉で受粉させた場合は花柱基部の子房まで花粉管が到達することを確認し、和合-不和合の判定が花粉管の観察によって可能であることを明らかにした。コナラと同様にサクラにおいても花粉管の伸長距離を計測することはきわめて困難であるが、花粉管の到達位置を、柱頭、花柱中部、花柱基部の3段階に分類して観測することにより花粉管伸長の差を表示できることが明らかになった。(2)SSRマーカーを用いた受精時期の堅果の遺伝子型解析の結果、同一堅果内の複数(2~4個)の胚で花粉親由来の対立遺伝子を検出した。この結果は、同一堅果内の6個の胚珠の内1個だけが発達すると推定される顕微鏡観察の結果とは矛盾する。花柱基部に達した受精前の花粉管に含まれる花粉由来の対立遺伝子を検出している可能性があるため、胚珠から胚嚢組織を厳密に分離するなどさらなる検討が必要である。(3)下堅果の虫害率については、設置したトラップ数が少なかったこと、台風や低気圧による強風で結果が広範囲に散布されたことなどから合計20個程度の堅果しか回収できなかったため、計測を残念した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
岐阜県百年公園において、胚珠選択、花粉管伸長を観察を発達の堅果の各段階で行う目的で、人工交配を実施し、交配後1週間ごとに観察用試料を採集してきたが、ゴールデンウィーク中の観測車両(高所作業車)が入園できない時期に、晴天・高温が続き、交配袋内の温度が異常に上昇し、発達段階の堅果の大部分が死滅したため、受精時期(5月下旬)の観察用試料がほとんど得られず、予定した観察ができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
自然受粉堅果を発達段階別に採集しているため、受精時期、受精する胚珠の個数、受精前の胚珠の中絶の徴候など研究目的をある程度達成することができる試料を採取、貯蔵している。この試料を用いて、顕微鏡観察およびDNA分析を行う。また、新たに、堅果発達の各段階で着生堅果を採取し、虫害率を観察するとともに、同時期に落下堅果を採取して同様の観察を行い、堅果の発達段階における中絶と虫害率の関連性を明らかにすることによって研究目的を達成したい。
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