研究概要 |
針葉樹一斉人工林における,帯状伐採後の林床の微気象環境について明らかにする目的で,前年度までに気象観測センサーを設置した大分県民の森(大分県大分市)の斜面方位の異なる2つの帯状伐採林分および皆伐林分を対象に,大気と土壌の温度と水分環境について1年分のデータをもとに解析を行った.気象観測センサーは,帯状伐採林分では伐採面を横断する直線上で,伐採部・左右の林縁部・残存部にそれぞれ設置し,対照とした皆伐林分においては伐採面中央に設置した.皆伐林分と帯状伐採林分の伐採部および残存部を比較したところ,帯状伐採部では皆伐林分と同等の温度(気温・地温)環境だった.土壌含水率は,伐採部中央(特に北向き斜面)がもっとも高く,皆伐林分で最低だった.帯状伐採地内(間)での温度と水分環境については,温度環境には大きな差異は認められなかったが,地温の年較差については北向き斜面が南向き斜面よりも大きかった。また,それぞれの林分の左右(東西)林縁部を比較すると,いずれの林分においてもGLI(Gap light index)がより大きい林縁で気温と地温の日較差が大きかった.土壌含水率については,南北両斜面においても伐採部が最高だった,したがって,帯状伐採部は温度環境については皆伐林分と同等でありつつ土壌含水率がもっとも高い,苗木の生育に適した箇所となることが示された。 また,九州大学福岡演習林の強度間伐(本数で50%)林分を新たな調査地とし,間伐前後の光環境と林床植生の変化を調査した,強度間伐ながら下層間伐で北向き斜面だったため,光環境の向上は大きくなかったが間伐一年後の植生量は間伐前よりも増加していた.しかしながら,この試験地ではシダ類の繁茂が著しく,新たに発芽した埋土種子由来の先駆性樹木は完全に庇陰されており,林分改変による生物多様性の向上にあたってはシダ,ササ類についての事前調査が必要と考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,国内において社会問題にもなりつつある施業放棄型の人工林に対して,間伐などの伐採によって林分構造を改変し,林床の微気象環境や植生の変化がどのように発生するのかを明らかにし,適切な森林管理の方向性を打ち出すことを目的としている.これまでに試験地および野外測定センサーの設置,および現地での植生調査を支障なく行っており,また学会発表などを通じて研究成果を段階的に公表している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は本研究課題の最終年度にあたるため,これまで以上に学会発表や学術雑誌等を通しての研究成果の公表に努める,これとともに,野外観測を主とする研究内容であることから,試験地に設置した気象観測センサー類によるデータの収集および試験地に赴いての植生調査等も継続して行い,長期的観測データについても収集に努める.
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