今までの研究により、ニホンジカによる強度採食を受けている大台ケ原では、採食を受けた場合にはニホンジカを排除した場合より土壌からの無機態窒素流亡量が多いことが明らかになっている。一方、軽度な採食のときには窒素養分を保持できると予測されているが実証されていない。本課題では『軽度な採食の時に窒素流亡量が最小になる』との仮説をたてて、これを検討することを目的とした。 そして、軽~中程度の採食を受けている奥日光地域においてシカ排除柵内外で土壌の窒素動態を調査した。結果はおもに3つにまとめられた。 1.土壌水中の無機態窒素濃度は、柵外(軽度~中度採食を受けている)のほうが柵内(採食を排除している)より低かった。このことから、ニホンジカによる軽度~中度の採食を受けている場合には、ニホンジカを排除した場合より土壌からの無機態窒素流亡の危険性が小さいと考えられた。 2.同時に土壌からの窒素流亡量を測定したところ、やはり柵外のほうが柵内より少ない傾向にあったが地点によるばらつきが大きかった。 3.柵外で土壌中の無機態窒素濃度が低いのは、土壌中の窒素無機化速度(土壌に蓄積している有機態窒素から無機態窒素が生成される速度)が遅いことが原因の1つと考えられた。 以上の結果1~3は、『軽度な採食の時に窒素流亡が最小になる』という仮説を支持するものであった。次年度以降も土壌の窒素動態測定を継続して、測定の精度を高める必要がある。
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