研究概要 |
1.本年度の調査では、軽度の採食を受けている奥日光地域の2つの調査地とも、土壌中の窒素無機化速度は1年を通じてシカ排除柵内のほうが柵外よりも大きい傾向があった。シカ排除柵内では土壌がより湿潤な傾向にあった。また、シカを排除することで低木層が回復していることが認められた。本研究では、シカ排除により回復した低木層には成長の速い樹種(いわゆる早生樹)が多く、リターの分解が速いと考えられる一方,シカ柵外の林床に優占している不嗜好性草本は二次代謝物を含みリターが分解しにくい可能性が考えられた。したがって、低木からのリター供給は窒素無機化を促進させる方向に働くと考えられる。シカ排除の有無による土壌の水分条件とリター供給の質の違いによって窒素無機化速度に違いが生じた可能性がある。また、土壌中の無機態窒素濃度もシカ排除柵内のほうが柵外よりも高かった。これらの結果から、シカ排除によって流出しやすい窒素はより多く生成され、流出しやすい窒素の土壌中の現存量も多くなるといえる。そして、予想通り窒素流亡量が軽度採食の時に小さくなる可能性が強く示唆された。 2.林床植物現存量についてはシカ柵内外で違いはなく、林床植物から土壌へ供給される窒素量も違いがないと考えられた。しかし、現存量にはばらつきが大きく、継続して現存量を測定する必要がある。このため、非破壊的に林床植物の現存量を推定する方法を検討した。出現種ごとに被度を測定し,コドラートごとに積算被度を算出して現存量の関係を解析した結果、近似式により積算被度から現存量を推定できることが明らかになった。
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